世代を越えた交流の場として
今回はちょっと足を伸ばして、埼玉県は秩父市にある「ゆいっこ」にお邪魔してきました。APLAの会員の長谷川さんが運営に関わっているご縁で、東ティモールのコーヒーが飲めて、地場産のお茶や紅茶、地元のお豆腐屋さんのお豆腐や油揚げ、駄菓子などに交じってチョコレート(チョコラ デ パプア)も販売されています。ちなみに、お豆腐は地元産の大豆も原料として使われているもので、とっても美味しかったです。
元々50年前までは駄菓子屋さんだった建物だということもあり、店内は懐かしさ満点。こたつもあり、なんとも落ち着く感じです。地元の高齢の方は「昔ここに通ってたんだよ~」と足を運んでくれるため、昔のイメージを大事にしているそうです。
「ゆいっこ」を運営しているNPO法人花の森こども園は、幼児の森のようちえんの活動に加えて、不登校や引きこもりの子どもたちの居場所として「かなりや」という場を設けています。そこに集う若者が、ひとつの居場所だけに留まらず、自分の役割を見つけてもう1歩外へ出ていくためのステップとして「ゆいっこ」が誕生しました。ここには色んな人たちが集まってきます。前述のような子どもや若者たちだけでなく、小さな子ども連れのお母さんや近所の方たちなど、年齢層は幅広く幼稚園生から90代まで、世代を越えた交流の場になっています。
ゆいっこの多面性
週2回、夕方になると「ゆいっこ」は寺子屋に変身します。小学校を引退された先生がボランティアで子どもたちの宿題や自習を見てくれる場になるのです。この寺子屋は、勉強をするだけの場所ではありません。「経済事情など様々な理由で、家庭が子どもにとって居心地の悪いものになっているのを感じます。虐待など、深刻な問題を抱えている家も増えています」と代表の葭田(よしだ)さん。格差社会のなかで、子どもの貧困化も着実に進んでいます。「ごく当たり前のように家族で喜んだりすることができない子どもたちも、ここでそれが経験できる」と理事の大久保さん。
子どもだけでなく親にも寄り添い、誰もが自分の弱さを見せられる場所、色々な大人が関わることで人の温かさを感じられる場所がここにあります。勉強はあくまで子どもと向き合うツールの一つであって、学力だけで評価されることない、ここに来ればほっとできる、そんな寺子屋です。
心が程よく動く場所
「ここはとても重要なところ。社会に出ていくひとつの取っ掛かりにもなっています」と話すのは、元々は「かなりや」に居て、1年前からコーヒーを淹れる担当をしている久米さん。就職先が決まり、5月からはこちらを離れるそう。「寂しいですね」と話す彼に「このお店を一言でいうと何ですか?」と質問したところ、「心が程よく動く場所」とお答えいただきました。
少子化が進んでいますが、不登校や引きこもりの子どもの数は増えているそうです。「ゆいっこ」は地域の中で子どもを育むという昔は当たり前だった役割を担っている、とても大事な場所でした。見えないけれど苦しんでいる子どもたちは数多くいるはずで、全国各地に「ゆいっこ」のような場所ができてほしいなと思ってしまいます。
「夜、子どもたちにおにぎり位でも出せたらいいんだけど……」と葭田さん。今のキッチン設備だと食品提供の許可が下りないそうですが、いつか子どもたちが「ゆいっこ」で手作りのおにぎりが食べられる日がくるといいなと思います。
そろそろお店も閉まる頃、常連の近所のおばあちゃんとスタッフとの方とで「また○日にね!」「はーい、風邪引かないでね!」なんてやり取りがあって、都会に住み慣れてしまった私は、心暖かくなったのでした。
大久保ふみ(おおくぼ・ふみ/APLA)
ゆいっこ
営業日時:火曜日の11:00~16:00
みなさんは「小商い」という言葉を聞いたことがありますか?『小商いのすすめ』(2012年、ミシマ社)の著者である平川克美さんは「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温で感じる圏域でビジネスをしていくこと」だと説明しています。グローバル化によって、一握りの大企業が世の中を席巻する昨今、私たちの身の回りには、誰がどこでどのように作ったかが見えにくいモノがあふれてきています。その裏では、環境破壊や資源を巡る争い、遺伝子組み換え作物の急増も。この事態を変えていく鍵が「小商い」にあるかも…!と考え、その実践者にお話を聞きます。 |