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手わたしバナナくらぶニュース

2016年1月+2月No.234 友情と連帯を土台にしたカカオの民衆交易

チョコラ デ パプアの原料であるカカオの産地はインドネシアのパプア州北部です。「カカオ・キタ(わたしたちのカカオ)」代表のデッキー・ルマロペンさんに、カカオの民衆交易に託す人びとの思いを語ってもらいました。

放置されていたカカオ畑

パプアでカカオの栽培がはじまったのは1950年代、当時この地を植民地にしていたオランダがパプア先住民族にカカオの苗木を配り、栽培や加工方法を指導したのです。1969年、パプアがインドネシアに併合された後も、今度はインドネシア政府がカカオ生産奨励プログラムと称して、ハイブリッド種の苗木を配ったり、栽培指導を行ったりしました。しかし政府のプログラムは一貫性がなく、生産者が確かな成果を見ることはありませんでした。政府は苗木を配ってカカオ生産に精を出せと言うのですが、収穫したカカオの売り先まで考えていません。結局、仲買人に言い値で買いたたかれて、生産者はカカオ栽培のやる気を失くし、多くのカカオ畑が放置されてきました。

「PAPUA産」であるということ
PAPUAの名前が入った製品とカカオの実

PAPUAの名前が入った製品とカカオの実

オルター・トレード・ジャパン(ATJ)を通じてパプアのカカオを原料にチョコレートを作って日本で売るという事業が始まってから、パプアの人びとがカカオに寄せる思いが大きく変わってきたと思います。まず、「PAPUA」という自分たちの土地と民族の名前が最終製品のチョコレートに印字されて販売されていることを知り、生産者はとても喜んでいます。今まではカカオ豆をジャワやスラウェシの仲買人に売ったとたん、PAPUAの名前は消えていました。わたしが生産者たちに「PAPUAの名前を汚さないように、美味しいカカオを育てよう」と言ったら、皆「そうだ、そうだ」と頷いていました。

もうひとつ、このカカオの民衆交易を通して、チョコレートを食べる人びととの関係性を築くこともわたしたちにとって大きな意味があります。人口が200万人にも満たないわたしたちパプア先住民族は2億4000万の人口を抱える大国インドネシアの中で超マイノリティーです。そのわたしたちが、カカオを通じて日本にたくさんの友人を持つことは大変心強いことなのです。日本の友人から多くのことを学び、それをパプア人による経済活動に生かしていければ、それは強制ではない、自然な社会の変容につながるのではないかと思います。パプアの農村部は今まで場当たり的な援助を与えられ続け、人びとが自立する力が削がれていました。しかし民衆が主役のビジネスにより、パプアの人びとの潜在的な力を伸ばすことができるのではないかと希望を持っています。

わたしたちの友人のために!
カカオ・キタのスタッフたち

カカオ・キタのスタッフたち

わたしはカカオ生産者に、「わたしたちの友人のために安心安全な食べものを約束しよう」と言っています。それは、農薬や化学肥料を使わない栽培を貫くことです。パプアは豊かな森と土と水に恵まれた土地です。神から与えられたこの自然の恵みを守りながら、わたしたちは生きてきました。しかし最近、グローバル企業が政府を通じてパプアでのカカオ増産の圧力をかけてきています。パプアのカカオ生産量は低すぎるといって、化学肥料を投与して生産量を増やせ、農薬を使って病虫害対策をせよ、と言うのです。でもパプア人は政府の言うことには基本的に懐疑的です。ある村では、除草剤を薦めた政府の役人に村人たちは「薬はいらないから、草刈機が欲しい」と言ったそうです。パプアの土地が破壊されないように、そしてわたしたちの友人が安全な食べものを得られるように、「カカオ・キタ」ではカカオ生産者と共にオーガニック・キャンペーンを展開していきます。オーガニックが当たり前なパプアでこのキャンペーンをやらなければならないのは何とも皮肉なことではありますが(苦笑)。

友情と連帯がつなぐカカオ
デッキーさん

デッキーさん

最後に、わたしたちのチョコレートを食べてくださっている皆さんがいることで、パプアのカカオ生産者は一時は放り出していたようなカカオ畑の手入れに精を出し、カカオを売ったお金の一部を貯金することを始めていることを知っていただきたいと思います。カカオの作付面積を増やしたいという生産者も増えています。カカオの民衆交易は、わたしたちパプア人にファイティング・スピリット(頑張る精神)を与えてくれています。

2016年も自然と暮らしを皆で守り、発展させる「友情と連帯のカカオ」をよろしくお願いします!

デッキー・ルマロペン(カカオキタ)
まとめ:津留歴子(つる・あきこ/ATJ)