東ティモールの農村における「衣食住」や「仕事」の様子を具体的に知りたい!ということで、全部で7村・集落でホームステイをさせてもらってきました。短い期間ながらも一緒に生活することで見えてきた東ティモールの姿。“わたしが出会った”という括弧つきの、主観たっぷりのレポートですが、むらの人びとの暮らしを少しでもお伝えできれば…と連載スタートです。
■訪問地
エルメラ県レテフォホ郡エラウロ村
APLAとのつながり: 協同組合KOHAMOR
- オルター・トレード・ティモール社(ATT):コーヒーのパーチメント加工する機械を導入、出来上がったパーチメントを買取り
- 互恵のためのアジア民衆基金(APF):KSIを通じて魚の養殖事業への融資
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■どんな場所?
エラウロ村は、首都のディリから車で約3時間。ディリ市街地を出て海岸沿いの道路を少しだけ走り、後はくねくねと続く山道を入っていく。エルメラ県の中心地であるグレノの町を抜けると、残り3分の1(約1時間)ほど。グレノから続く幹線道路沿いに広がる村で、地理的には比較的恵まれた村だといえる。周囲にコーヒー産地が広がる高地で、朝晩は冷え込む。周囲の山から流れる小川のおかげで水には非常に恵まれており、乾季でも水が枯れることのない湖もある。
村長の話によると、2004年の統計調査で村の人口は約1800人。今年2010年に統計調査が予定されているが、そのときには2000人を超えているのではないか、とのこと。また、村のほぼ全世帯が(大小の差はあるものの)コーヒー畑を所有していて、6月~8月のコーヒー収穫シーズンは、家族総出で休みなく働いている。
■ホームステイ先
今回ホームステイをさせてもらったのは、APLAが活動を共にする現地NGO・KSIの代表ネタさんの両親(父・アントニオさん、母・アニタさん、共に59歳)の家。KOHAMORのリーダーであるシロさんはネタさんの弟であり、大学卒業後に実家に戻ってきた。ちなみに子どもは全部で11人の大家族だが、シロさん、中学生のアティトくん、小学生のアダロくん以外の兄弟姉妹は、ディリなどで仕事や学校に通っている。ただし、東ティモールの人にとっての「家族」の範囲は広く、日本で考える「親類縁者」はみんな「家族」。
大小あわせて6つのコーヒー畑を所有しており、収穫したコーヒー(チェリー)は、KOHAMORに売っている「コーヒー農家」だが、アントニオさんは、村に小学校を設立し一時は校長をつとめ、その後1999年~2003年には村長をつとめたこともある地元の名士的存在。現在も小学校で2年生のクラスを教えている。同時に、家の一角で小さなキオス(日用品の小売店)を営んでいる。小学校の休み時間になるとお菓子(チューイングガムやスナックなど)を買いに子どもたちがやってくるが、その応対をしてお菓子を売ってあげるのは「先生」という光景も見られた。
■コーヒーの仕事
アニタさんと実姉のディナさんだけでは働き手が足りないので(アントニオさんは、午前中は学校で午後はキオス番。シロさんは、KOHAMORのコーヒー加工作業でいそがしい)学校から帰ってきた近所の子どもたちに手伝ってもらっている。アニタさんは労賃を現金で渡すのではなく、収穫作業終了後にボテと呼ばれるカゴひとつぶんをその子の取り分としている模様(その子がKOHAMORに直接売って現金を得る)。大体1人1.5ドル~2ドル前後を得ている模様。その子どもたち、嫌々仕事をさせられているというわけではなく、裏山をかけまわるような感覚でみんな楽しんでいる感じが伝わってくる。おしゃべりしたり、歌をうたったり、大声で叫んでみたり、みんなでワイワイ賑やか。実際子どもたちに聞いてみたら「コーヒーの仕事大好き!」という答えが返ってきた。お小遣いを稼げることも大きなインセンティブであることに間違いはない。
昼前に家を出て約30分かけて山の中のコーヒー畑(森のような感じ)に到着。途中からかなり足場の悪い斜面を行くが、昼食が入ったお鍋や食器などを頭で運んで難なく歩いていく子どもたちに脱帽。犬のフィトゥナとロンデも一緒についていく。昼ごはんを食べる時間約20分をのぞいて、基本的に夕方まで働きっぱなし。
斜面に植わったコーヒーの木の枝から赤くなった実を収穫する作業は予想以上に大変。カギ型の棒を使って枝をぐんとしならせて下に引っ張った状態で収穫したり、(特に子どもたちは)枝に登って収穫したり。長時間上を向いて手を伸ばしての収穫作業なので、首肩がかなり痛くなる重労働。さらに、シェードツリーの落ち葉などが上からバラバラと降ってきて、目に入ったりして大変だった。
村長のお連れ合いのティナさんに聞いた話だと、エラウロ村では、ほとんどの世帯がコーヒー畑を持っているために、収穫シーズン中の労働力不足が大きな悩みだという。近郊からの労働者に賃金を払って仕事してもらうという手もあるが、知らない人間に適当な仕事をされたり、農園を荒らされたりしたくないという理由で、結局そうしない人が多い。自分のコーヒー畑の収穫が終わった人が、労賃をもらって別の人のところを手伝うということはあるようだが、それ以上に多いのは、アニタさんのところのように自分の子どもや近所の子どもたちが学校から帰ってきてからの半日の手伝いを頼むというパターンだという。相場としては1日3ドル、半日で1.5~2ドルとのこと。
■家の様子
台所は、母屋の裏に隣接する別の小屋。東ティモールの農村の台所は、ほぼどこでも土間づくりで、薪で煮炊きするので、台所のなかに煙が蔓延する。目がすごく痛いが、みんなは慣れているからか、まったく平気な様子。薪はコーヒーの収穫の時についでに山から運んでくる。台所仕事は女性の仕事。ただ、子どもたちは男女関わらず(でも女の子の方が特に)よく手伝う。
水場は、山から流れてきた水を家の外まで引いていている。比較的きれいな水なので、ここでは飲料水から炊事までこの水ですましている。ミネラルウォーターを購入する必要もない(どこの家庭も同じ状況なのだろう、村のキオスではミネラルウォーターはほとんど見かけない)。朝にまとめてペットタンク15個分くらいに水をため、台所の中に運び、それを料理や飲料用(一度わかして)につかっている。食器洗いや洗濯は外の水場でおこなう。キオスで購入する合成洗剤(1袋25セント)を使用しているが、そのまま川に流れているのが気になった。水浴び場は、家の中にあるが、便器と水をためる槽があるだけのシンプルなもの。トイレも水浴びも小さな手桶で水を汲んで使う。前述のとおり、かなり冷える地域なので、時によってはわかした熱湯をバケツで水浴び場に運んで、それと水を混ぜて水浴びしている模様。
村には電気が通っているが、夕方6時~夜中0時までしか使えない。ちなみに電気代は、2Aで2.5ドル/月、4Aで4.5ドル/月だという。アントニオさんたちは4Aで契約。テレビはあるが、壊れてしまいディリに修理に出したいと思っている。ラジオは乾電池で動くものを使用している。家の中に、足踏みミシンが2台あり、アニタさんが洋服のお裁縫の内職をすることも。その他家具は、いたってシンプルで、食事用の机と椅子、食品を収納するシンプルな棚、リビングにソファーと小さなテーブル。バルコニーにもデーブルと椅子を出してある。
■食事
日常の食事は朝、昼、晩の3回。朝はコーヒー、パンや揚げパン(共に村内につくっている人がいて購入)や茹でたキャッサバ、それにマーガリンやオムレツが加わることもある。おとなも子どもも砂糖たっぷりの甘いコーヒーにパンをひたして食べるのが好きなようだ。ちなみにパンや揚げパンは1個5セントというのが平均的な価格の模様。卵は1つ25セントと高価なので大体2個をつかってオムレツをつくって、みんなでほんの少しずつ食べる。
昼と夜は基本的に主食の白米ご飯におかずが1~3品というスタイルで、基本的におかずはどれも油で炒めて味の素社のインドネシア向け製品「Masako」と塩で味付けする。肉はお祭りなど特別な時以外ほとんど食べられないごちそう。
滞在中のメニュー例は以下のとおり。
【晩ごはん】
1. 白米ごはん、空芯菜とトマトのニンニク炒め、さやいんげんと人参の炒め物、人参入り焼きそば(インスタントラーメン)
2. 白米ご飯、青菜炒め物、オムレツ、キャベツ入り焼きそば(インスタントラーメン)
3. 白米ご飯、クレソンとキャベツの炒め物、ツナ缶入りオムレツ、エシャロットのマリネ
4. 白米ご飯、さやいんげんと青菜と人参の炒め物、ツナ缶入りオムレツ
5. 白米ご飯、キドニービーンズのスープ煮、青菜の炒め物、ツナ缶入りポテトフライ、チリソース
【昼ごはん】
6. 白米ご飯、キドニービーンズと青菜と人参のスープ煮 @コーヒー農園
7. 白米ご飯、青菜とキャベツの炒め物、トマトとレタスのサラダ(エシャロット入りオイルドレッシング)
8. 白米ご飯、クレソンと青菜とトマトの炒め物、トマトとレタスのサラダ(エシャロット入りオイルドレッシング)
おとなも子どもも白米ご飯をお皿に山盛りにして、おかずは少しずつ分け合う。そのせいもあって、おかずの味付けはかなり濃い目(そしてMasakoの味がしっかり)。昔は主食として頻繁に食べられていたキャッサバやイモ類は、現在では1日に1回程度。米が主食という人が多い。多くの人が「(キャッサバは)もう飽きた」と口をそろえる。その一方で、1日1回はキャッサバを食べないと物足りないという人も多い。甘くておいしいから、茹でる以外に何かいい調理法があったらいいかもしれない。
村のなかで野菜をつくっている人も少しいるようだが、基本的に(特にコーヒーシーズンは)野菜はいちばなどから買ってくる。グレノやレテフォホのいちばで買ってきた野菜を家の前で小売している人がいたり、キオスで少し売られたりしているが、価格の高さに驚く。青菜(青梗菜)1束0.5ドル、キャベツ1個0.5ドル、さやいんげん大きな袋1つ2ドル、ミニトマト7~8個0.5ドルなど。野菜だけでも結構な出費なのではないか。 それ以外の調味料や食材については、基本的に村のキオスで必要な時に随時購入するようだ(アニタさんは自分の家のキオスからとってくる)。価格は村のなかではどこでも一定で(そうでないと安い方に客が流れるから)塩1袋10セント、砂糖1袋50セント、ツナ缶1ドル、油小1本1ドル、スーパーミー(インドネシアのインスタントラーメン、中に1食分の調味料が入っている)20セントといった具合だ。
コーヒーについては、コーヒー農家だけあって、売り物にならない不良豆を自家消費している様子。中華鍋で1時間くらいローストするのだが、薪の火力の調整が難しく焦げがひどい。とはいえ、砂糖をたっぷり入れて飲むので誰も意識していないが…。「3 in 1(ネスカフェのミルクパウダーと砂糖とまざっているインスタントコーヒー)」は、キオスなどでお金を出して買わなくてはいけないので、逆に特別な存在。
■子どもたち
ご近所一帯が大きな家族のような感じ。実際の親族関係がある場合も多いようだが、とにかく子どもたちがあちらこちら出入りしている。自然に家事を手伝い、ごはんも一緒に食べていたりするので、本来はどこの家の子どもかを判別するのが本当に大変なくらい(笑)。地域みんなで子どもを育てている、地域で子どもがのびのびと育っている、そんな感じが見受けられて、うらやましく思う。それに関連して、(アジアの他の地域でもそうだが)子どもが小さな赤ん坊の子守りをするのが当たり前。6・7歳の子が小さな妹弟をだっこ紐でだっこしながら楽しそうにあそんでいる様子をどこででも見かける。
小・中学校は村に1校ずつあり、無料(政府の政策)。高校は村にはないので、まち(グレノやディリなど)に出なくてはいけない。親戚の家などに居候して通う場合が多いようだ。エラウロ村の小学校の生徒数は、現在1~6年生までで約380人。「コーヒーの収穫シーズンは家の手伝いで学校を休む子どもも多い」と6年生担任の先生。授業は朝9時半~12時ころ。途中一度休憩時間をはさみ、子どもたちは前庭であそんだり、近くのキオスでお菓子を買ったり、楽しそうだ。子どもたちがよくかんでいるチューイングガムは2個で5セント。コーヒーで稼いだお金がこういうところに使われているのだと思う。
報告:野川未央(のがわ・みお)