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2012年1月22日~28日ドイツ・脱原発の旅報告《第一部》

1月22日~28日の1週間、「ドイツ・脱原発の旅」に参加しました。日本で緑の党の設立をめざす「みどりの未来」がドイツの緑の党の協力を得て企画したもので、福島原発事故直後に脱原発を宣言したドイツでの再生可能エネルギーの進展状況と、放射能廃棄物処分の現状を、駆け足でしたが、この目で見ることができました。これから3回にわたってご報告します。

再生可能エネルギーへ飛躍的に転換―バーテンヴュルテンベルク州の挑戦

フランクフルト空港に到着した私たち一行が向かったのは、ドイツ南西部に位置するバーテンヴュルテンベルグ州のモスバッハ市。同州は昨年3月11日の福島原発事故直後に行われた州議会選挙で緑の党が躍進し、58年間続いた保守党政権(キリスト教民主同盟=CDU)から政権交代し、ドイツ初の緑の党州知事を選出した。この敗北がその後のメルケル首相(CDU党首)による原子力政策の転換(脱原発宣言)へとつながっていく。
モスバッハ市のあるネッカー・オーデンバルト郡にはドイツ初の商業用原子炉「オブリヒハイム原発」があり、37年間の運転を経て、2005年に廃炉になっている。その後、同郡では広大な森林と農林業を背景にバイオガスや太陽光をエネルギー源とする方向へシフトしていった。

クリスティーネ・デンツさん

23日の早朝からホテルの会議室でこの地域におけるエネルギーシフトの現状について様々な立場の方からお話を伺った。口火を切ったのは、緑の党郡支部長のクリスティーネ・デンツさん。70年代から反原発の活動に関わってきたという。ドイツでは緑の党と社会民主党の連立政権時代の2000年に「再生可能エネルギー促進法(注:EEG)」が制定され、その後、再生可能エネルギーへの飛躍的な転換が進んだ。同郡でも過去10年間に5000基の小型太陽光発電施設(10軒に1軒)、22カ所の風力発電所、小水力発電、バイオマス発電、木質チップによる発熱施設等が整備され、再生可能エネルギーが全体の35%を占めるようになり、国内でも先進地の一つになっている。
再生可能エネルギーの固定価格買取を定めたEEG法がドイツのエネルギーシフトの制度上のバックボーンだとすれば、それを具体的に進めていく実践母体の一つに「都市事業公社(SWT)」がある。自治体が100%出資する、言わば第三セクターのような存在で、発電も行い、送電線も所有しているので、送電も行う。バイオガスで発生したメタンガスの発電に伴う熱を地域熱供給網を通じて供給する事業もある。それ以外に、水道事業、都市ガス供給、街灯管理、駐車場経営までやってしまう「なんでも屋」さんだ。

農家がまかなう700世帯のエネルギー

エーゲンベルガーさんのバイオガスプラント

「現場を見ましょう」ということで、貸切バスに乗り込み、近郊のバイオガスプラントへ。「ドイツでは許可なく車両が森を通過することは禁止されてるんです。今日は許可をもらってますが」とデンツさん。バスが小さな森の道を通って数分後、広い土地に赤いバイオガスプラントが見えてきた。この土地で農業をやっているエーゲンベルガーさんが2007年に自前で建設したプラントである。エーゲンベルガーさんはバイオガス用にとうもろこしと牧草を生産し、収穫(とうもろこし年1回、牧草年3回)した後、野積みし(6週間)、1日1回18トンずつをプラントに投入(1時間に750kgが自動的に落下)、家畜の糞尿と混合させ、発酵し、メタンガスを発生させる。このガスは活性炭で硫黄分などが除去されたのち、ガス管を通じて2.3km離れたところにある都市事業公社のコージェネ・モジュール・プラントまで運ばれ、電気(300万kwh)と熱(330万kwh)に変換される。電気はこの地域の700世帯の電気に。熱は温水パイプ式の地域熱供給網で住宅地へ。都市事業公社はこの農家がバイオガスで発電した全量を市場価格より高い値段で買い取っている。
農林業資源の豊富なバーテンヴュルテンベルグ州では、ドイツ北部に比べて風力発電は少なく、太陽光やバイオガスをエネルギー源とする実践例が目立つ。

バイオガスプラントに投入するとうもろこしと牧草

コジェネ・モジュール・プラント

市民型企業ソーラー・コンプレックス社

地下に敷設される温水管

その後、さらに南下してスイス国境にあるボーデン湖の近くのレストランでソーラー・コンプレックス社のベネ・ミューラーさんからお話を聞いた。同社はボーデン湖地方の地元住民22人が出資して2000年に設立した市民型企業で、現在の株主数は700、資本金は600万ユーロ(約6億円)。中小企業や都市事業公社、家族企業なども参加している。同社が手がけているのはバイオガスで熱と電気を自給できる「バイオエネルギー村」づくり。2006年のマウエンハイム村にはじまり、2011年までに7カ所ができ、2012~13年中にも2カ所計画中である。マウエンハイムはボーデン湖北西30kmにある100世帯430人の小さな村で、バイオガスによる発電と発熱を基本に、木質チップ施設による発熱や太陽光パネルでの発電も加え、現在、発電量は村で必要な電力の9倍(余剰は売電)、発熱量は90%に達している。かつて暖房用に外部から購入していた灯油3万リットル分(3万ユーロ)に相当する熱をバイオガスや木質チップで賄い、住民はこれを灯油の5分の1の価格で購入している。村の外400mのところにバイオガスプラントと木質チップ施設があり、ここから地面下に4km敷設された温水管を通って各家庭に温水が暖房や給湯用として供給されている。「人は環境保護だけでは説得されない。経済性があってようやく再生可能エネルギーへの転換を説得できる」。ソーラーコンプレックス社は地区の公民館などを使って村民の個別質問にていねいに対応することでマウエンハイム村の配熱システムを実現させた。外部から購入していた電気や熱などのエネルギーを地域内で生産し供給することで、資金も地域内で循環し、地域経済が活性化する。同社は2030年までにボーデン湖地方(人口6万人)のエネルギー自給をめざしている。

再生エネルギーへ転換中―チュービンゲン市

ボリス・パルマーさん(チュービンゲン市長)

2日目は人口8万のチュービンゲン市を訪問。就任5年目のチュービンゲン市長であるボリス・バルマー氏は緑の党で、就任後、市民参加によるエネルギー政策と温暖化防止キャンペーンを実現させた。市の街灯電力を50%削減し、自動車交通を規制して自転車の利用拡大をはかった(市長も自転車で登庁する)。保守基盤のバーテンヴュルテンベルグ州で緑の党が躍進したのはなぜ?と質問すると「保守といっても”反動的保守”ではなく、本来の意味での保守。価値を守るという立場から、フクシマの事故が意味する原発の危険性に反応した」と興味深い答えが返ってきた。
チュービンゲン市でも再生可能エネルギーへの転換の推進母体は市の100%子会社である都市事業公社である。大学町でもある市ではすでに1914年の時点で大学内に熱供給システムがあった。現代的なコージェネレーション・システム(発電と発熱の組み合わせ)は1984年からはじまり、拡大している。都市事業公社のある敷地内で見たコージェネ・モジュール・プラントでは発電により発生した熱に8倍の圧力をかけ110度の温水にして熱供給網に送熱し、これが各家庭で減圧され40度で利用される。温度が下がった温水は返送されて再び熱がかけられ温度を上げ、これが繰り返されている。
温暖化防止を最優先事項としている同市では、今後、太陽光発電や風力発電を増やしていく予定である。現在、市全体の消費電力の30%を都市事業公社が供給し、残りは大手の電力会社から購入している。市民の再生可能エネルギーに対する意識は高まっており、都市事業公社のエコ電力の顧客は4年前の800人から1万人へと急増した。

エネルギー転換と産業界

フランツ・ウンターシュテラーさん(バーテン・ヴュルケンベルク州環境相)

バーテンヴュルテンベルグ州の州都であるシュツットガルトでフランツ・ウンターシュテラー州環境相に会うことができた。同州では州議会選挙で緑の党が躍進し、州知事も環境相も現在では緑の党。フランツ氏は通訳がついていけないほど途切れなく語った。
産業地帯でベンツやアウディなどの自動車メーカーや技術メーカーが多いこの州では、原発を5基(ドイツ全体で17基)も抱え、使用電力の半分を原子力発電に頼ってきた。2005年に1基が廃炉になり、その後2カ所が停止(廃炉決定)し、現在は2基のみ稼働中だが、2022年にはすべて廃炉となる予定。原発5基の廃炉には600億ユーロ(6兆円)がかかるが、廃炉費用は原発会社自身の責任であり、会社がこの費用を積み立てることが義務化されている。
これまで原子力発電で賄ってきた4500メガワットの電力を、今後、代替エネルギーで補わなくてはならないが、2020年までに風力・太陽光を中心に拡大し、再生可能エネルギーによる電力を全体の38%に増大させる予定という。再生可能エネルギーの技術メーカーや研究機関も多く、技術開発が進展する見込みがある。発熱インフラの整備を推進し、新しい住宅は熱需要の20%を再生可能エネルギーとすることを義務化していく予定。安定したエネルギーを産業界にどのように供給するかが大きな課題であるが、再生可能エネルギーへの転換政策に対し、現在は産業界からの抵抗はないという。

旅の最初の2日間は、ドイツの保守基盤のバーテンヴュルテンベルグ州が脱原発に大きく動き出している様子を、目で、耳で、肌で感した2日間でした。チェルノブイリ原発事故を経て、少数派である緑の党の掲げた脱原発への方向性が、福島原発事故を経て、ドイツの主流の考え方になりつつある。
次回は、旅の後半の2日間の部分で、ドイツの放射能廃棄物処分の現状について視察してきたことを報告する(処分予定地のコンラートでは地下1000mの坑道も視察!)。

(注)ドイツの再生可能エネルギー促進法(EEG):2000年に制定。地球温暖化防止や環境保護等の観点から、配電業者に対し再生可能エネルギーによって発電された電力を20年間の固定期間、固定価格で全量買い取ることを義務化した法律。再生可能エネルギー普及のための助成制度とみなされている。いく度かの改正を経て、再生可能エネルギー普及の数値目標(総電力量に占める割合)が以下のように明記されている。2020年までに35%、2030年までに50%、2040年までに65%、2050年までの80%。日本ではこれに類する法案を菅政権が提出し、昨年8月に成立したが、数値目標は示されていない。

報告:疋田美津子(ひきた・みつこ/APLA共同代表)