3.11以後、APLAは、被災した農民の方たちから現状や思いを聞くことからはじめました(詳細は、APLA Report no.5に掲載)。その時に、APLA共同代表の疋田美津子が所属する「しらたかノラの会」とつながりのあった「JAみちのく安達・二本松有機農業研究会(以下、二本松有機農業研究会)」のみなさんと出会ったことをきっかけけに、以後、二本松に通いつづけています。そして、苦悩を抱えながらも、震災直後から土を耕し、作物の力による除染や再生を手探りで進めてきたメンバーのみなさんたちとの交流・意見交換を通じて、まずは、共に学び・考える場としての「福島百年未来塾」の実施と有機にんじん使用まるごとジュースの販売に取り組みはじめています。
今回、二本松有機農業研究会の代表・大内信一さん(70歳)に改めてお話をうかがうことができたので、3回に分けてご紹介します。
農産物の放射能汚染と測定について
人参は、ナスやキュウリやトマトと同じく、セシウムがもっとも移行しにくい作物です。それは、チェルノブイリの事例をもとにしたデータでも証明されていましたが、自分たちで耕作することで、実感に変わりました。私たちは。横浜にある同位体研究所につくった野菜などの測定を依頼しています。ここは放射能測定に関しては非常に有名なところで、3000万円もする高額な機械を使って、検出限界1Bqまで測ることができます。
一般では10~20Bqが検出限界ですので、この研究所の機械では非常に詳細な数値が出ます。昨年生産したにんじんジュースは、最初の製造ロットでセシウムが1Bq/kg、2回目の製造ロットでは不検出という結果でした。さらに、地元にも市民測定所があるので、そこでも測定しています。これは、お寺さんが募金を集めて、機械を提供してくれたものです。
測定費用は、東電から補償されています。同位体研究所は一品1万5000円、地元の測定所は3000円かかります。有機農家は多品目を栽培しているから高くつくため、グループでは30万円くらいの請求になります。領収書を添付して申請すれば、補償を受けることができますが、放射能検査は事故さえなければ、まったく必要なかったことなので、この補償は当然だと考えています。
去年、私の集落でつくられた米から基準値以上のセシウムが検出されました。そこで今年は、私の集落では米の販売と移動が禁止されています。出荷はできないですけれども、今年も米をつくっています。一度田んぼを荒らしてしまうと後が大変だからです。それに、作物をつくって少しでも放射能を減らしていくというのが、自分の信念だからです。ゼオライトやカリ肥料もまいていますが、それよりも土と作物の強さや賢さに賭けています。
去年、原発事故後に離れてしまったお客さんは、なかなか戻ってきません。1年経過して、放射能汚染があまり出ない作物もあるとわかりましたが、福島の野菜なり農産物が危険だと思ってしまった方の不安は、そう簡単には払しょくできないのではないかと思います。原発事故は1年ちょっと前のことですので、時間が十分にたっていないのでしょう。
でもこの1年で私たちは、農作物がセシウムを吸うメカニズムについて、徐々にですがわかってきました。今年は、「こうすれば作物がセシウムを吸わない」という確信をつかみたいと思っています。作物をつくらなかったら、いくら知識としてあっても、その成果を信用することはできません。やっぱり実際に自分でやってみないと、わからないのです。
私の地区でも農業をやめる人がいます。でも、私も、私の家族も、ここで農業をやっていきたいと思っています。福島は汚染されてしまって、もう農業をできないと言う人もいます。私たちは、できるかできないかわかりませんが、やるだけはやってみたいです。何年かかるかはわかりませんが、いつか安全な農作物をつくることができると信じています。APLAと共同でやっている「福島百年未来塾」にも、そういう思いを込めています。ただ100年後には自分はこの世にいないので、できれば5年、10年で何とかできればと思っています。〈了〉
APLA事務局より:とあるイベントでにんじんジュースを対面販売したときのこと。千葉で農業をやっている若い女性は、ニンジンがそこまでセシウムが出ない作物だということを聞いて喜んでいました。機械の検出限界によっては、実際のところどれだけ出ているかわからず、不安に思っていたからです。彼女は、大内さんたちの成果によって励まされる思いだと話してくれました。
まとめ:安藤丈将(あんどう・たけまさ/APLA評議員)&APLA事務局