自然の力を最大限活かした粗放型養殖でエビを育てている生産者と、それを冷凍加工してエコシュリンプとして日本に輸出しているオルター・トレード・インドネシア社(ATINA)のスタッフが協力して2012年に立ち上げた、KOIN(Konservasi Indonesia)というNGOがあります。3月に開催した原発に関するセミナーに続き、4月、子どもたちを対象にした「持続可能なエビ養殖と環境に関するセミナー」が開催され、APLAも財政支援と開催協力という形で関わりました。
エコシュリンプ養殖の後継者を育てたいという想い
そもそもは、2013年10月に来日したエコシュリンプ生産者のイルルさんとムジャヒディンさんが、ネグロスのカネシゲファーム・ルーラルキャンパス(KF-RC)の取組みの話を聞いて感動し、「自分たちの地域でも次世代を担っていく若者を育てたい!」という熱い想いを抱いたことがきっかけでした。
その第一歩として開催にいたった今回のセミナー。池主の子ども17人、池管理人の子ども9人、ATINA工場スタッフの子ども8人、水産局職員の子ども1人、合計35人が参加しました。高校生が中心でしたが、中学生と大学生もそれぞれ数人ずつの参加がありました。
最初に主催者の挨拶として、KOINのイルルさんからセミナーの目的についての説明がありました。彼自身、生産者の中では若手ではありますが、「自分たちと一緒にエコシュリンプの養殖事業、そしてこの地域を担っていくのは君たちのような若者だ。環境のことをしっかり学んでほしい」と強く語りかけていました。
講師として迎えたのは、4人。まずは、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)の上田社長より、エコシュリンプの取組みの歴史的経緯や意義などについて説明されました。エコシュリンプが日本に初めて届いたのが1992年のこと。今回の参加者の大多数が生まれる前のことです。養殖池や加工工場など、自分の親が関わっているエコシュリンプですが、その背景をきちんと知ったのは初めて、という子どもたちがほとんどだったようです。
続いて、東ジャワ州グレシックを拠点に活動する現地NGO・ECOTONによる講義に移りました。講師のダルさんは、参加者の子どもたちに対して様々な質問を投げかけながら、本来的な川の役割、川の生態系、排水とゴミによる水質汚染の問題、健康被害の問題、子どもたちによる水質保全活動の事例など、自分たちが暮らす環境について子どもたちが主体的に考えられるように導いていきます。主催者にとっても大変興味深く学びの多いものだったと感じています。
その後、シドアルジョ県水産局職員のアルフィさんから、県の水産資源の状況やブラックタイガー養殖についての説明があり、さらに日本から参加したBMW技術協会事務局の秋山さんからは、水の循環システムとBMW技術(注)の簡単な仕組みについて説明がなされました。
学校が休みの日曜日、しかも朝早くからのセミナーにも関わらず、居眠りなどする参加者は一人もおらず、昼食休憩まで続いた各講師の話に真剣に耳を傾けている様子が印象的でした。
内容についての理解度はバッチリ
昼食後は、午前中の内容の理解をはかる30分のテストからスタート!エコシュリンプや川の生態系、BMWのシステムなど、設問は4つ。午前中に学んだ内容を簡潔に論述せよ、というものでした。このテストを作成したのは、KOINのメンバーであり、来日経験もあるATINAスタッフのワワンだそうです。
テスト終了後は、エコシュリンプ工場の説明とBMWプラントの見学の時間。ちょうどエコシュリンプの収獲期ということで工場内部では加工作業が続いており、大人数での見学が難しいため、工場内の様子を映すビデオのデータをプロジェクターで映して、各セクションの仕事について説明を受けることになりました。養殖池から到着したクーラーボックスの荷受けの様子だけは外から見学することができ、工場からの排水を処理するBMWプラントに移動しました。どれも初めて見る設備ばかり。これまで親の仕事にそこまで関心を持たなかった子どもたちも、興味津々で案内役のスタッフに質問をしていました。
この見学の間にKOINのメンバーがテストの回答を採点。最後に、テストの結果発表がおこなわれました。トップ5人(なんと100点が4人、95点が1人)が表彰され、KOINオリジナルの壁掛け時計が授与されました。それ以外の参加者にも、KOINが用意したセミナー修了証書と記念写真の贈呈があり(これもKOINメンバーが手の込んだものを準備)、集合写真をとって、夕方には解散となりました。
「日本の若者との交流も企画したい」
セミナー開催の翌日、発案者でもあるイルルさんが来て、こんな話をしてくれました。「セミナー開催した夜に10人くらいの池主から電話やSMSがあった。みんな口をそろえて『子どもに話を聞いたが、とてもいいプログラムだったようだ。(今回は知識だけだったようなので)今度は、実践もやってほしい』『今まで、自分から池のことなど話しても興味を持たなかった子どもが、今回のセミナーで刺激を受けたようだ。参加させてよかった』といったコメントを寄せてくれて、すごくうれしかった」
KOINとしては、参加者の親たちからリクエストのあった実践のプログラムについても、今後実現したいと考えているとのこと。それ以外に「日本の若者がエコシュリンプの産地を訪問して、今回の参加者を交流できるような企画もしたい」とイルルさん。今後の展開が楽しみです。
報告:野川未央(のがわ・みお/APLA事務局)
注:バクテリア(微生物)・ミネラル(造岩鉱物)・ウォーター(水)の略。バクテリアとミネラルの働きをうまく利用し、土と水が生成される生態系のシステムを人工的に再現する技術のこと。エコシュリンプを加工するATINAの新工場では、BMWのプラントが稼働している。