秋~春はたいやき、夏はかき氷
西東京でたいやきといえば、と聞かれて自信をもってオススメするのが「たいやきやゆい」です。リヤカーにのせた愛らしい屋台が目印。国立市内の自然食品店やカフェなど、曜日ごとに決まったお店の軒先でたいやきを焼いている由井尚貴さんですが、4年前からは夏季限定でかき氷やさんに変身します。夏はたいやきが売れづらいということもあり、「せっかくあんこを作っているので夏らしい形でみなさんに食べてほしい」という想いから始めたとのこと。
当初は、あずき、抹茶、いちご、杏など、ベーシックだけれど手をかけた数種類の自家製シロップと練乳(こちらもお手製!)にしぼって展開していましたが、パートナーである洋子さんが営む「お菓子屋ミモザ」と一緒にお店を構えてからは、季節ごとの果物で丁寧につくったシロップが数多く仲間入りして、目移りしてしまうほどのラインナップです。そこにバランゴンバナナも含まれています。「かき氷にバナナ!?」と驚くなかれ、ミルクベースの優しい甘さにバナナのコクが合わさってやみつきになるお味です。
屋台での商いの根っこにあるもの
由井さんのたいやきは、鉄の型で一尾ずつ焼き上げる昔ながらのたいやき。その風景には、道行く誰もがちょっと足を止めてしまいます。「お年寄りから子どもまで親しみを感じてもらえるのが屋台の魅力」と語る由井さん。夏は店内でゆっくりかき氷を楽しんでもらう形にシフトしたものの、秋から春は屋台でのたいやきやを続けています。この屋台へのこだわりが気になって、色々と質問してみると、20代前半の時に旅行やボランティアで通算3年間インドに住んでいたという話が飛び出してきました。アジアでは路上でのモノ売りを生業(なりわい)とする人たちがたくさんいますが、由井さんにとっては、インドで様々なモノ売り、特に野菜売りの人たちと仲良くなったことがいまの商いのスタイルの根っこにあるようでした。
つながりを形に
インドで野菜のおいしさに目覚め、そこから料理を始めたという由井さん。さらに、生産の現場も知りたいと考え四国で有機農業の研修を一年受けてから、レストランでの仕事についたそうです。そして、独立を決めた時、色んな人と出会えて自分ひとりで作れるものを提供するには……と考えて、屋台というスタイルと(手間のかかる食事よりも)甘いものを、という方向が定まったといいます。
そうした想いがベースにある由井さんのかき氷は、手動式のかき氷機で一つひとつ丁寧に削られたふわっとした氷の上に、素材の味を生かして手作りしたシロップがかかった宝物のような一杯です。6月~10月までに果物の旬がどんどん変わっていくので、そのつど旬のものを農家さんから直接仕入れています(バランゴンバナナを含んで一部例外あり)。
ここ数年のかき氷ブームで、たいやきやゆいのかき氷にも長蛇の列ができる毎日ですが、「つながりがあるから、責任をもって仕事ができるし、お客さんに食べてもらうものに自信が持てます」という言葉からは、流行とは関係ない由井さんの真摯な姿勢が伝わってきて、さらにファンになってしまうのでした。 野川未央(のがわ・みお/APLA)
たいやきやゆいのかき氷
東京都国立市西2-19-12 ヘリオス国立1-B
TEL:042-505-6210 営業時間:11:00~18:00(夏季のみ) 定休日:火曜日
http://taiyakiyayui.jugem.jp/
みなさんは「小商い」という言葉を聞いたことがありますか?『小商いのすすめ』(2012年、ミシマ社)の著者である平川克美さんは「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温で感じる圏域でビジネスをしていくこと」だと説明しています。グローバル化によって、一握りの大企業が世の中を席巻する昨今、私たちの身の回りには、誰がどこでどのように作ったかが見えにくいモノがあふれてきています。その裏では、環境破壊や資源を巡る争い、遺伝子組み換え作物の急増も。この事態を変えていく鍵が「小商い」にあるかも…!と考え、その実践者にお話を聞きます。 |