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2024年7月25日「私たちの種を守ろう!」エルメラ演劇団、市場で上演

7月25日、木曜日。木曜日はエルメラ県の県庁所在地であるグレノで市が立つ日です。この日は道を封鎖し、なにやら設営をしているところにガヤガヤと人が集まり、なんだかいつもと様子が違います。そう、この日は市場に「劇団」がやって来るのですから! 

その劇団とは、私たちAPLAとエルメラ県を拠点に活動する有機農業団体TILOFE(Timor-Leste Organic Fertilizer)のメンバーや地元の演劇グループから成る、この日のための特別な劇団です。

当日は警察にも協力を依頼し、グレノの市場前大通りを封鎖。たくさんの人が観にきてくれました。

 

APLAは、ここ数年「在来の種子保全」に特に力を注いでいます。その背景には、東ティモールでもF1種の野菜の種子が流通するようになり、野菜の種子は毎年お金を払って購入しなければいけないもの、つまり「お金がなければ入手できないもの」という認識が定着してしまっている状況があります。種子の問題が、市場経済に地域の農がコントロールされる状況の要因のひとつになっています。APLAは種子バンクの設立や在来の種子に関する調査などを実施しながら、活動する地域コミュニティの中で在来の種子保全について伝えたり学ぶ機会を創出したりなどしていますが、なかなか個々の実践につながっていないと感じることもあります。もちろん、まったくゼロではないのですが、非常にゆっくりとした歩みです。そこで、TILOFEの仲間と話をするなかで浮かんできたアイデアが演劇です。演劇を通して、楽しく視覚的に在来の種子保全の重要性について伝えることにしました。 

顔を突き合わせて、あーだこーだと言いながら一緒に作り上げた脚本は、演劇に込められたメッセージを身近に感じてもらえるように工夫をしました。「昔は竹で作った容器に種をしまっていたんだよ」と孫に教えるおじいさんが登場し、この一家は家族みんなで種子を集め保存をしだします。こういった話は、たとえ現在において実践が途切れていたとしても東ティモールの農民にとって未だ身近な話です。特に、トウモロコシや豆類については現在でも在来の種子の種取りをし次の作付けのために保存している農民が少なからずいます。そういった先祖の知恵や実践と地続きのなかに、私たちが今、取り組むべきことがあるのです。市場に集まり、演劇を笑って楽しむ人びとのなかには、うなずいている様子も見られました。演劇を観ながら「そうそう、昔はそうだった」と思った人や「Avo(おじいさん・おばあさん)に聞いたことがある」と思った人もいるでしょう。

日本人でテトゥン語もまだまだ下手くそな私も「見栄っ張りおばさん」として演劇に登場しました。「こんな真っ白で綺麗な肌の私に畑になんて行かせるの?なんでもお店で買えば済むじゃない」とサングラス姿で言い、劇団リーダー扮する夫と大喧嘩になります。娘を巻き込み集落長まで引っ張り出す滑稽な夫婦喧嘩に観客は大笑い。しかし最後には、種子を集める家族や集落長のおかげで見栄っ張りおばさん一家も仲直りし、「みんなで地元の食べものを大切にし、畑に行き、私たちの種を守っていこう」とハッピーエンドを迎えます。

練習風景。見栄っ張りおばさん一家が集落長のもとへ駆け込み、揉めているところ。

演劇グループの皆と記念撮影。困難もあったものの、大勢の前で上演を終えて達成感。

 

今回の演劇には地元の若者が演者として多く加わり、準備や練習、そして本番と取り組んできました。地元であるエルメラ県の種子保全のために、自ら活動し上演をやり遂げたことは達成感や「自分たちもなにかやろう」というポジティブなエネルギーにつながったのではないかと思います。「また演劇をやろう!」という誘いもあり、私も乗り気になってしまっています。 

現在、撮影チームが動画制作に取り組んでくれています。

今回は一か所での上演となりましたが、手応え感じることができたので、今後は県内のほかの地域でも上演ができればと考えています。そのためには資金が必要なのが現実で、この活動を応援してくれる方を募るため、当日の様子を撮影した記録映像をもとに現在PR動画制作中です。どうぞ応援よろしくお願いいたします。

松村多悠子(まつむら・たゆこ/APLA事務局)

※本活動は、パルシステム埼玉「平和募金」およびWE21相模原の皆さんからのご寄付で実施することができました。