3.11以後、APLAは、被災した農民の方たちから現状や思いを聞くことからはじめました(詳細は、APLA Report no.5に掲載)。その時に、APLA共同代表の疋田美津子が所属する「しらたかノラの会」とつながりのあった「JAみちのく安達・二本松有機農業研究会(以下、二本松有機農業研究会)」のみなさんと出会ったことをきっかけけに、以後、二本松に通いつづけています。そして、苦悩を抱えながらも、震災直後から土を耕し、作物の力による除染や再生を手探りで進めてきたメンバーのみなさんたちとの交流・意見交換を通じて、まずは、共に学び・考える場としての「福島百年未来塾」の実施と有機にんじん使用まるごとジュースの販売に取り組みはじめています。
今回、二本松有機農業研究会の代表・大内信一さん(70歳)に改めてお話をうかがうことができたので、3回に分けてご紹介します。
にんじんジュースについて
私たちがにんじんジュースをつくるようになったきっかけは、2年前に人参が多く収穫できたことです。知り合いの鶴巻義夫さんが経営している(有)津南高原農産という新潟の業者に加工を依頼しました。鶴巻さんは開拓農家でして、普段は米や野菜をつくっています。新潟は雪の多い地域ですので、冬の仕事として農産加工を始めたのです。加工の技術も高く、評判も良いので、全国から頼まれています。その時のにんじんジュースは、評判が良くて、製造するとすぐに売れてしまいました。
このにんじんジュースには、加工に際して添加物など余分なものを混ぜていません。純粋な人参の味です。原料となる人参づくりには、細心の注意を払っています。普通、人参の種は8月初めに播くのですが、私たちの仲間の一人が8月末に播きました。すると、その人参でつくったジュースは、他のジュースと比べると味が劣るものになってしまいました。種をまく時期が遅れると、それがジュースの味に影響するのです。人参は真っ赤になれば、それが完熟のしるしです。この完熟した人参の味が、味の決め手になります。
完熟の人参をつくるには、種を播く時期に加えて、土づくりが大切です。急に肥料をまいたくらいでは、おいしい人参はできません。本当に味の良い人参をつくるのは、簡単ではないのです。品種も、収量もあって、味が良く、寒さに強く、貯蔵性に優れているものを選ぶようにしています。おいしい品種は、冬の寒さに弱いのが難点です。割れやすいものは、味が落ちます。あまりに大きな割れ目ができてしまうと、その割れ目から腐ってしまうからです。
また、人参は夏の暑さに弱く、3~4日すると、萎れてしまいます。でも、冬の人参をジュースにしておけば、夏の料理にも使えます。私たちもジュースを料理に使うこともあります。みなさんもいろいろなレシピを考えてみれば、ジュースの楽しみ方が増えるのではないでしょうか。
最近では、人参を大量に生産できるようになりました。それは、夏の雑草対策に成功したからです。夏の太陽の光線のもと、ビニールを敷いて10日間くらいおけば、雑草の芽を殺すことができるのです。でも、ビニールを使うと資材費がかかるし、ゴミにもなってしまいます。そこで今は、「コンパニオン・プランツ(相性の良い作物)」を見つけて、作物で雑草を抑えられるよう、いろいろ研究をしています。
コンパニオン・プランツを見つけるにあたっては、仲間や先輩の話を聞くこともあります。ただ大切なのは、その話を自分のものにすることです。技術や精神はそのまま真似しても、役に立ちません。できた作物を盗んだら泥棒になってしまいますが、良い技術や精神はどんどん盗むべきです。農家の中にも、先輩の作物や畑を見て、そこで使われている技術を自分のところでうまく実践する人もいれば、教えるくらいいっぱい知識があるのに実際にやってみるとダメな人もいます。これは、借り物の知識であるか、その知識を本当に自分のものにしたかどうかの差です。失敗する人は、自分が未熟だったとは言いたくないから、土や天気のせいにして逃げ道をつくってしまうことが多いのです。〈続〉
APLA事務局から:ネグロスの農民たちも、良い農法があると聞くとそれをそのまま実践してみることが多いのですが、なかなかうまくいきません。自分の土地に合うやり方をしないと、成功しないんですね。
まとめ:安藤丈将(あんどう・たけまさ/APLA評議員)&APLA事務局