2012年8月、ヌエバ・ビスカヤ州カシブ地域に位置するマラビン渓谷にBMWプラントが設置され、活用実験が始まりました。
ネグロス島のカネシゲファーム・ルーラルキャンパス(KF-RC)で始まったBMWの活用を見て、自分たちのところでも実践してみたいと、2009年にCORDEVがBMWプラントを設置。有機堆肥製造にBM活性水が活用されていました。その後、北部ルソンの地域においても活用の実例や実践する農家を複数に増やし、地域内の活用方法を見出すために、新しいBMWプラントが設置されることになり、マラビン渓谷のギルバート・クミラさんが実践者として選ばれました。
マラビン渓谷は、柑橘類の特産地ですが、山深くに位置し、一番近い町までも車で約2時間かかります。そのため、農業資材を調達するのにも輸送コストがかかり、現在は安い化学肥料に頼った農業をしています。また、柑橘生産において病虫害のコントロールのために農薬も使っています。
しかし、マラビン渓谷の農民の多くは先住民族(イフガオ族)の人たちで、鉱山開発や森林伐採など周辺地域の開発が進むなか、森を守りながら農業を進めたいと考えており、地域内の持続可能な農業のあり方を模索しています。BMW技術も将来的に地域内の循環をめざす一助となるよう、まずは活用の実験が始まりました。2012年12月からは、ギルバートさんの農場で実験が開始されています。
訪問した2013年1月は、柑橘の花が咲く前の時期。開花時期にはBM活性水の活用有無の比較実験の様子が出てくるのではないかと期待しているところです。
ギルバートさんの農場訪問と合わせて、マラビン渓谷に柑橘栽培を持ち込んだパイオニアであるノムヘイさんの農場も訪れました。ノムヘイさんが柑橘栽培を始めたのは1990年代のこと。ノムヘイさんの5ヘクタールの農場の下にも金が眠り、外国の企業が土地を狙っているといいます。しかし、地域の未来を考えたときに、森を伐採し、鉱山開発が進めば子どもたちが住める場所はなくなってしまう……とノムヘイさん。なんとか農業でも稼げる方法はないかと、いったんは地域を離れ、外で様々なことを学んだのち、マラビン渓谷は柑橘栽培に向いているということが分かり、地元に戻ってきて実践を始めたとのこと。
マラビン渓谷で中心に生産されている柑橘は「温州みかん」です。現地では「サツマ」と呼ばれるこのみかん、皮が薄いため流通や保存に耐えられるか心配だったそうですが、種がない・むきやすい・ジューシーで味わい深いということで爆発的な人気に。そうした経緯から、地域の人たちに柑橘栽培を奨励し、今ではたくさんの農民が生産しており、 協同組合もできました。
ノムヘイさんの農場では柑橘類だけでも多種類あり、それ以外にもドリアン、ランブータン、マンゴスチン、アボガドなど、たくさんの果物が生産されています。広大な養殖池で魚(ティラピア)の生産もしています。養殖池に水を貯める前に、堆肥を投入することで、水を入れたときに発生する水草やプランクトンを魚に食べさせ、魚を収穫したあとは、池の水を畑にまくことで、液肥の代わりにしているそうです。
「柑橘栽培を始めたのは、最初のとっかかり。色んな果物を作ったり、魚の養殖をしたり、将来的には養豚も導入し、地域で堆肥が生産できるようにしたい。金採掘ではなく、持続可能な地域づくりをすすめていくのが目標である」と、ノムヘイさんは話してくれました。
吉澤真満子(よしざわ・まみこ/APLA事務局長)