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2018年11月15日【要請書】フィリピン・ミンダナオ島の「スミフル」ブランドにかかわる農園で働く労働者に対する人権侵害の実態の真相究明と再発防止を求める

住友商事株式会社 代表取締役 社長執行役員 CEO 兵頭 誠之様
株式会社スミフルジャパン 代表取締役社長 伊藤順次様

2018年10月31日18:00ごろ、フィリピン、ミンダナオ島コンポステラ・バレーにて「スミフル」ブランドにかかわる農園で働く労働者で、労働組合NAMASUFAの組合員でもあるDanny Boy Bautistaさん(31)が所属不明の男2名に銃撃され死亡する事件がありました。

それから2週間も経たない2018年11月11日20:20ごろ、同じくNAMASUFAの組合員であるJerry Alicanteさん(45)が同様に所属不明の男2名から銃弾2発を受けて負傷し、現在治療中です。

このような二人に対する暴挙はあってはならないことであり、貴社が関わるビジネスの現場で起きている深刻な人権侵害、そして、そうした状況下で生産されるバナナが私たちの食卓に並ぶという事態について、私たちは大変遺憾に思います。また、今回の暴力的な事件が、スミフル・フィリピンに係る組合活動及び2018年10月1日から行われたストライキに対する弾圧である可能性を鑑みて、早急に真相究明および再発防止策を講じるよう貴社に強く要請します。

二人の所属する労働組合NAMASUFA(正式名称:Nagkahiusang Mamumuo sa Suyapa Farm)はフィリピン労働雇用省からも認知されている正規の労働組合であり、スミフル・フィリピン系列農場で働く900余名が参加している労働組合です。同組合は12年以上もこれら農園で働く非正規の労働者の正規雇用を求めて活動をしてきました。

フィリピン労働法においては6ヶ月の試用期間を経た労働者は正規雇用(期間の定めのない雇用)として採用されることを定めていますが、農園側はこれら非正規の労働者を「労働のみの請負」として採用しており、雇用関係にないことを主張してきました。

しかしながら、2017年3月、フィリピン労働雇用省による省令174号(Department Order No. 174 Series of 2017)で「労働のみの請負」は全面的に禁止されました。さらに、同年6月にはスミフル・フィリピンと労働者らの間に雇用関係を認め、また労働組合NAMASUFAを労働者の代表として認める最高裁判決が出ています。(2017年6月7日GR No. 202091)

にもかかわらず、2018年11月12日現在、労働者らの正規雇用はいまだに実現していません。また、NAMASUFAからは再三団体交渉ならびに労働協約の締結を求める書面を送付しているものの返答はなく、2018年8月13日にスミフル・フィリピンに送付した団体交渉の要請にも回答がありません。

このような組合活動の妨害はストライキ可能な事案であり、NAMASUFAは9月初旬の組合会議にて参加組合員749名の全会一致でもってストライキを決定しました。9月4日にはフィリピン労働雇用省に対して正式にストライキ手続きを行ない、労働法にて定められている「冷却期間」を設けた後の、10月1日よりストライキに入りました。

ところが10日後の10月11日、作業場への介入を防ぐためにピケを張っていたストライキ参加者らに対して国軍・警察のスト鎮圧部隊が派遣され、ピケは暴力的に破壊されました。さらに鎮圧部隊による暴力行為によって17名以上の労働者が負傷し、中には内出血や吐血を伴う労働者もいました。

銃撃されたDannyさん、Jerryさんはそれぞれスミフル・フィリピンの梱包所340と220を拠点に働く労働者であり、ストライキ・ピケにも参加していた、精力的な組合員でした。

NAMASUFA代表John Paul Dizon氏によれば、ほかの組合員もこの間に恐喝、暴力事件、殺人未遂の被害者になっており、二人の銃撃事件を含む一連の人権侵害が偶発的に発生したとは考えにくいことを指摘しています。

したがって、私たちは上記状況を鑑みて下記のことを要請します。

1. 至急2つの銃撃事件および他の組合員の受けている人権侵害の実態の真相究明(人権デューディリジェンス)をし、犯人及び動機を明らかにすること。また、このような事態が二度と起きぬよう、再発防止を講じること

2. フィリピン労働法および最高裁の裁定に従い、労働組合NAMASUFAに所属する900余名並びに非組合員で労働のみの請負として使用されてきた労働者を即時期間の定めのない雇用とするよう、系列企業・サプライヤに対して貴社のレバレッジを行使すること

3. 国連人権理事会(UNHRC)による「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011/註1)、経済協力開発機構(OECD)による「多国籍企業行動指針」(2011/註2)並びにOECD/国連食糧農業機関(FAO)による「責任ある農業サプライチェーンのガイダンス」(2016/註3)などで再三指摘されている、匿名性が担保され、対応の透明性が確保された苦情処理メカニズム(Grievance Mechanism)をウェブサイトその他公的に容易にアクセス可能な箇所に設置し、以降労働者を含むサプライチェーン上のステークホルダーが問題の即時通報が可能な体制を整備すること

4. 一連の人権侵害・労働規制違反ならびにその対応策について貴社の見解ならびに対応方針について本要請文署名者らへ説明いただく協議の場を設けること

<署名者(11月15日時点)>

特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
特定非営利活動法人 APLA
認定特定非営利活動法人 国際環境NGO FoE Japan
石井正子(立教大学教授/フィリピン研究)

<本要請に関する連絡先>

特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)担当:田中
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL: 03-5209-3455/FAX: 03-5209-3453/office@parc-jp.org

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註1)国連人権理事会(UNHRC)「ビジネスと人権に関する指導原則」は国連事務総長特別代表として任命されたジョン・ラギー氏によって提出され、2011年の第17回国連人権理事会にて支持された文書。人権を守る国家の義務だけでなく、人権を尊重する企業の責任が明文化され、被害者に対する救済措置の重要性が強調されている。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000062491.pdf

註2)経済協力開発機構(OECD)「多国籍企業行動指針」は参加国の多国籍企業が責任ある行動を自主的に取るよう勧告する指針。2011年の改定にて企業の人権尊重の責任にかかわる章が新設され、人権に対する悪影響を特定・予防・緩和するための規定が盛り込まれている。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_ho.pdf

註3)経済協力開発機構(OECD)/国連食糧農業機関(FAO)「責任ある農業サプライチェーンのガイダンス」は上記「多国籍企業行動指針」に関連して産業別ガイダンスとしてOECDおよびFAOによって策定されたもの。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000285227.pdf