2022年9月17日、福島県二本松市の会場とオンラインのハイブリッド開催という形で「福島百年未来塾2022」を開催しました。当日の内容について、簡単にご報告します。
基調講演1:飯田哲也さん(NPO法人環境エネルギー政策研究所所長)
大学と大学院で原子力を学ばれたのち、原子力の分野の中枢が空洞であることを実感された飯田さん。30代で北欧に行ったことが転機になったといいます。原子力に依存している日本とは違い、ボトムアップで原子力から抜けようと努力している北欧で環境エネルギーの未来を垣間見た後に日本に帰国した飯田さんは、新しい政策づくりや地域エネルギーづくりに携わります。福島県で再生可能エネルギー100%を提案したのも飯田さんなのだそうです。
講演の柱として、震災11年を経た現在の良いニュースと悪いニュースが共有されました。良いニュースとしては、再生可能エネルギー100%は、低コストで実現できることがこの10年で研究者の学説の主流になったということです。太陽光発電のコストが10年前と比べて10分の1、風力発電は10分の3と、大幅に下がっているというデータを見せながら、古い技術から新しい技術への急転換のメカニズムが説明されました。
一方の悪いニュースは、世界史上最悪級の原発事故を起こした日本が、国も東電も誰一人として責任を取っていないなかで未だに原子力発電に固執していることです。国際社会を巻き込んだ形で放射能影響が矮小化されていることについての懸念も伝えられました。また、「風評被害」や「放射能デマ」といった上からの言葉が丁寧な議論をかき消してしまうSNS時代の難しさについて、「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」という言葉を使って思考の硬直化についての警鐘にはハッとしました。
最後に、デンマークとドイツの市民による再エネの動きの紹介があり、そのうえで自分たちがいる場所から世界の知性とつながって未来を創ることの重要性を語られていたのが非常に印象的でした。
基調講演2:佐原真紀さん(認定NPO法人ふくしま30年プロジェクト理事長)
2011年3月までは「普通に子育てをする母親」だったという佐原さん。原発事故後、2011年9月にオープンした市民による放射能測定所に関わるようになり、2019年からは福島市の市議としてのお仕事もされています。事故当時から「放射能はまったく害がない」「福島には住むべきでない場所だから直ちに避難すべき」というように、様々な専門家の意見が飛び交うなかで、ふくしま30年プロジェクトは、国や行政からは独立した放射線防護のセカンドオピニオン的な立場で測定活動を続けてこられたといいます。
全国からの寄付によって、食品の測定、ホールボディカウンターでの子どもたちや妊婦さんを優先にした測定、そしてホットスポットファインダーを使っての空間の測定と記録をしてきています。事故から3年が経過して以降は、子どもたちが自分の身を守れるようになってほしいという思いから、子ども向けの放射能ワークショップを開催してきたそうです。また、放射能についての悩みをなかなか相談できないお母さんたちのための交流会や、外遊びを制限された子どもたちのために自然体験の機会も作ってきたそうですが、保養に関しては、年を追うごとに必要性を感じる方が減ってきていたことやコロナ禍で実施が難しくなってしまったという現状についても伝えてくれました。
福島県内の子どもたちの健康状況については、「検査をやっているから(甲状腺がんが)見つかっている」という声や「今後も検査は続けていくべきだ」という意見など、子どもを持つ親の間でも意見の相違があるのが現実だとのこと。原発事故後の放射能の問題について、不安を抱えている方たちと問題ないと考える方たちとの思い・見解の違いによる分断が地域の中で起きてしまっている現状は、コロナ禍の状況とも重なるところがあると感じていると佐原さんは語られていました。何が正しいのかの答えが出ないことへの対応の難しさは、私たち誰もが共有している課題であり、福島だけの問題でないことを改めて感じました。
ふくしま30年プロジェクトによる記録誌「10の季節を超えて」
https://archive-fukushima.org/
事例報告
大内督さん(一般社団法人二本松有機農業研究会代表)と遠藤美保子さん(社会福祉法人ちいろば会理事長)から、それぞれ農に携わる立場、子どもに関わる立場としての事例報告をしていただきました。
二本松有機農業研究会は、督さんのお父さまである大内信一さんらによって1978年に発足し、二本松市で有機農業を続け、消費者へ直接届けていましたが、東日本大震災での原発事故で個人のお客さまは6割減少してしまったそうです。原発事故を契機にエネルギーについては無関心だったことに気づき、APLAとの出会いや2012年の「福島百年未来塾」の開催などを経て、ドイツの再エネの現場の視察をしました。そこで食品残渣によるバイオマスガス発電に関心を持ちますが、労力とお金がかかるということで断念せざるを得ないなか、今回の基調講演者である飯田さんに「新しいことを始める時は、まずは必ず成功できる小さなことから始めて仲間を増やすのがいい」と後押ししてもらい、営農型発電(ソーラーシェアリング)に取り組むことになりました。
「震災後、孤立をしている、取り残されたという思いが強かったところ、APLAの皆さんとの交流に励まされた」と語られる遠藤さん。APLAが震災後に始めた福島県内の子どもたちにフィリピン産のバランゴンバナナを送る活動でつながってきました。今回の事例報告では、年に1回の食事調査についての報告がありました。震災直後は南相馬市の各園に放射能の測定機器が設置されていたのが、4年前に1カ所になって以降、原町聖愛こども園も食材を持っていって測定してもらう形になり、その結果を保護者に伝えてきました。震災から月日が経てば、食材ついて心配する人はやがてゼロになると考えていたそうですが、この3年間は「現状について心配だ」という保護者の割合が少しずつ増えているとのことです。今は、心配という意見があってもいいんだと理解していると話されていました。
パネルディスカッション
飯田さん、佐原さん、大内さん、遠藤さんの4名によるパネルディスカッションは、限られた時間ではありましたが、東日本大震災以降、それぞれの立場・様々な方法で食の安全やエネルギーの問題に向き合ってこられた皆さんの苦悩も伝わってきました。
しかし、そんな苦境のなかでも皆さんそれぞれの取り組みが地域の人びとの大きな支えになっていることは言うまでもありません。「(震災で6割のお客様が減ったが)逆に4割のお客さんが残ったことに励まされた。「安全だ」と言い切ることは決してできないので、とにかく計測をした数値を公開して、判断をしてもらうことを続けてきた」という大内さんのお話、そして「考えの違いによる分断ではなく、対話を」と前向きな姿勢に力強さを感じました。
また、昨今、太陽光発電の害ばかりが強調されることに対して、使えなくなったソーラーパネルの95%程度はリサイクル可能であるという事実を示したうえで、再生可能エネルギーの持つ大きな可能性について具体的に示してくださった飯田さんのお話にも希望を感じました。
報告:八田(インターン)・野川(事務局)
APLA事務局より
今回の「福島百年未来塾2022」を新たなスタートとして、福島の皆さんとともに「私たちの未来」のための行動を続けていきたいと思いを新たにしました。二本松のソーラーシェアリングの見学ツアーなども企画していく予定ですので、どうぞご参加ください。