パレスチナ農業開発センター(UAWC)から緊急報告と行動の呼びかけ第2報が届きました。
パレスチナ人の土地接収とイスラエル人入植地の拡大、入植者による襲撃、建築物取り壊しと強制退去、検問所等による移動制限が深刻化しています。また、イスラエル政府は「ヨルダン川西岸地区」の呼称をユダヤ名の「ユダヤ・サマリア」に変更する法案を提出しようとし、米国もこれに同調しています。ヨルダン川西岸地区のイスラエル完全併合の脅威がかつてないほど身近に迫っています。
2025年2月10日
パレスチナ農業開発センター(UAWC)
日本語訳:株式会社オルター・トレード・ジャパン
ヨルダン川西岸地区は限界に達している。この1年間、イスラエル占領軍と入植者は、強制移住、標的を絞った暴力や土地接収のキャンペーンをかつてない規模でエスカレートさせてきた。これは新たな危機ではなく、入植植民地主義とパレスチナ人の民族浄化という、長年にわたるイスラエルのプロジェクトが加速していることを意味する。現在、イスラエル政府はますますつけあがり、米国では極右のレトリックが台頭し、ヨルダン川西岸地区のイスラエル完全併合の脅威がかつてないほど身近に迫っている。
前例のないイスラエル入植地の拡大
イスラエルの占領は記録的なスピードで植民地を拡大しており、2024年には過去20年間の合計よりも多くの土地を接収した。2024年末時点で、植民地化と分離壁抵抗委員会(CWRC)は、ヨルダン川西岸とエルサレムに180の入植地と256の前哨地(非公認の入植地)に77万人以上の入植者がいると報告している。これらの前哨地のうち、138カ所は農地または放牧地につくられ、占領がいかに農業を土地接収の対象としているかを物語っている。2024年だけでも、イスラエル人入植者は新たに51の前哨地を設立し、そのうち36は放牧地である。イスラエル政府は1万ユニットの入植地を新たに承認し、パレスチナの土地をさらに不当に奪っている。
ベザレル・スモトリッチ財務相の下で2023年に設立されたイスラエル入植地管理局は現在、防衛相を飛び越して、入植地に関する唯一の権限を有している。これは入植地の拡大を加速させ、事実上の併合への転換を意味する。軍ではなく文民が入植地の計画、土地の接収、パレスチナ人の建設許可を組織的に拒否する決定をするようになったからだ。2024年12月現在、入植地管理局の高等計画審議会は毎週会議を開き、入植地の建設と拡張計画を承認している。設立から2カ月の間に、毎週数百の新しい入植ユニットを承認しており、現在進行中の入植地拡大と土地接収の常態化を意味している。この拡大は、単に違法入植地を増やすということではなく、パレスチナ人コミュニティを互いに切り離し、農民や牧畜民が恒久的に強制退去させられることを確実にする、支配のメカニズムだ。
制度化された入植者のテロ行為
CWRCの統計によると、2024年だけでヨルダン川西岸地区全域でイスラエル占領軍と入植者によるパレスチナ人とその所有物への襲撃総件数は16,600件以上を記録した。CWRCの統計によると2025年1月だけでも2,161件の襲撃事件があった。国連人道問題調整事務所(OCHA)は、2024年にパレスチナ人に犠牲者や器物損壊を与えたイスラエル入植者による暴力事件を1,420件記録しており、これは2006年に記録が始まって以来最多である。ヨルダン川西岸保護コンソーシアム(WBPC)は、肉体的暴行、放火、器物損壊を含む2,274件以上の入植者による暴力事件を報告している。これらの攻撃により、5人のパレスチナ人(子どもを含む)が殺害され、360人(35人の子どもを含む)が負傷し、26,100本以上のオリーブの木が切り倒された。
こうした入植者の攻撃は思い付きではなく、パレスチナ人を自分たちの土地から追い出すための組織的な戦略の一環なのだ。武装した入植者たちは、しばしばイスラエル占領軍兵士と連携して村を襲撃し、家を焼き、水源に毒を流し、農作物を破壊する。抵抗する人々は、イスラエル軍の奇襲、集団逮捕、実弾射撃にさらされる。2023年10月以降、イスラエル政府の全面的なイデオロギー的・物質的支援のもと、イスラエル人入植者はイスラエル占領軍の支援を受けて、こうした暴力的な攻撃をエスカレートさせている。
強制退去
2024年の建築物取り壊しと強制退去の危機は記録的なレベルに達し、2023年10月から2024年12月までの間に、1,762棟のパレスチナ人所有の建造物が破壊され、1,712人の子どもを含む4,253人のパレスチナ人が立ち退きを余儀なくされた。合計165,000人がこれらの影響を直接受けている。特にエリアCでは、コミュニティ全体が強制的に人口を減らされている。特にベドウィン(遊牧民族)が狙われており、300世帯以上のベドウィンが退去した。WBPCは、エリアCの195のコミュニティ(58,000人のパレスチナ人)が強制移住の危機にさらされていると認定した。このうち39,000人は、激化する入植者の暴力、土地へのアクセスの制限、パレスチナ人の家やインフラの継続的な取り壊しのために、差し迫った脅威にさらされている。WBPCの報告によると、これら195のコミュニティからの強制移住により、エリアCの18%、すなわち西岸地区の11%が、入植地拡大のためにイスラエルに乗っ取られる危険にさらされている。すでに約2,000人のパレスチナ人が、入植地拡張のために接収された土地から強制移住させられている。
西岸地区には、1948年以来最大規模の強制移住の波が押し寄せている。ジェニン、トゥルカレム、その他の難民キャンプや都市に対するイスラエルの攻撃が激化し、1か月間で4万人が強制的に移住させられた。さらに、OCHAによると、2005年以降にヨルダン川西岸地区で亡くなったパレスチナ人の子どもの半分近くが、過去2年間に亡くなっている。
深刻な移動制限と経済的締め付け
パレスチナ人のヨルダン川西岸一帯の移動は、検問所、道路上のブロック、ゲートなど898の障害物によって厳しく制限されている。2025年1月以降、占領軍は少なくとも18の検問所を新たに設けた。重要な道路や村の入り口は封鎖され、住民の緊急医療、教育、生計に支障をもたらしている。パレスチナ赤新月社(PRCS)の報告によると、イスラエル軍は、負傷したパレスチナ人や死者の遺体に近付くことを日常的に遅らせたり、完全に拒否している。こうした移動制限は、食料不安を悪化させ、市場や生計手段、必要不可欠なサービスへのアクセスを妨げている。全長700キロを超えるアパルトヘイトの壁と、イスラエル占領下の入植者専用道路網の拡大は、パレスチナの土地をさらに分断し、パレスチナ人を孤立した居留地に追いやる一方で、イスラエル入植者は自由に移動している。
イスラエルによる入植者拡大戦略には、パレスチナの農業に対する直接的な攻撃も含まれており、パレスチナの食料主権を解体することを目的としている。2024年、入植者の攻撃と移動制限により、パレスチナの農家は推定850万米ドルの直接的損失、さらに150万〜200万米ドルの間接的損失を被った。
イスラエルの併合成文化
イスラエル占領政府は、ヨルダン川西岸地区の併合を正式に決定するための新たな法案を提出しようとしている。イスラエルの新たな法案は、「ヨルダン川西岸地区」という正しい呼称を「ユダヤ・サマリア」に公式に置き換えようとしており、これは完全併合に向けた取り組みの加速を表している。米国の政治家たちも同様の法案を提出しており、イスラエルの拡張主義に米国が加担していることを示している。イスラエルが提出した別の法案は、イスラエルの入植者たちがヨルダン川西岸地区のパレスチナの土地を合法的に「所有」できるようにするもので、入植者による植民地支配をさらに強固なものにするものだ。
2025年1月、イスラエル占領軍はヨルダン川西岸地区における国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁止する新たな法律を制定し、人道支援さえも制限し、パレスチナ難民の危機を悪化させた。すでに施行されているこの禁止措置は、何千人ものパレスチナ難民の医療、食料配給、教育など必要不可欠なサービスへのアクセスに深刻な影響を与える。UNRWAの活動禁止は既存の人道的大惨事をさらに深刻化させ、すでに脆弱なコミュニティが重要な支援を受けられなくなると同時に、イスラエルによるさらなる強制移住と併合計画を促進することになる。
国際的共謀と暴力の激化
この危機は米国の全面的なバックアップのもとに起きている。トランプ政権はイスラエル占領軍に何十億ドルもの軍事援助を提供し続け、こうした攻撃に使われる武器や機械に資金を提供している。その一方で、トランプとその同盟国はヨルダン川西岸地区の完全併合を公然と求め、イスラエルの民族浄化政策をあおっている。米国の議員たちは、パレスチナ人の連帯と抵抗を犯罪化する一方で、イスラエルの入植者団体に資金をつぎ込んでいる。
ネタニヤフ首相が訪米し、イスラエルと米国の両政府がパレスチナ人への弾圧強化への相互支持を再確認するなか、私たちは国際的な行動の必要性を強調する。イスラエルの占領と入植者による暴力がさらにエスカレートし、重要なインフラの破壊、農地へのアクセス制限の強化、重要なサービスへの攻撃により生活が破壊されることが予想される。イスラエル政府の支援を受けた入植者たちは、パレスチナの食料や水源、道路、市場を標的にし続け、パレスチナの生活と経済に対する支配をさらに強固にすると見込まれる。イスラエル軍が移動制限を強化し、パレスチナ人が建設したインフラを取り壊す中、パレスチナ人が自分たちの土地にとどまり、生活を維持する能力は組織的にむしばまれている。
国際司法裁判所(ICJ)と国連総会はヨルダン川西岸地区におけるイスラエル占領の違法性を再確認した。ICJは、イスラエルによる占領は違法であり、直ちに終結しなければならないという画期的な判断を下した。国連総会もこの決定を補強し、東エルサレムを含むパレスチナ占領地におけるイスラエルの入植地はすべて法的効力を持たず、明白な国際法違反であるとした。これらの決定は、イスラエルによるパレスチナの土地の事実上の併合を阻止するために、国際的な責任と行動が緊急に必要であることをさらに強調している。
イスラエルによるガザへの大量虐殺戦争は停戦によって一時休止したが、イスラエルの破壊は止まっていない。本格的な民族浄化作戦を続けているのだ。早急に国際的な行動を起こさなければ、さらに多くのパレスチナ人コミュニティが消滅してしまうだろう。
エリアCへの援助の除外
援助対象からC地域を除外することは、イスラエルの併合を事実上容認することになる。イスラエルや西側諸国の政府からの圧力により、国際的な援助団体はエリアCでのプロジェクトを除外し始め、イスラエルによるこの地域の支配を強化している。この排除は、イスラエルの民族浄化政策への加担を示すものであり、パレスチナ人コミュニティの強制移住を助長するものである。開発援助や人道援助は、イスラエルが課した制限によって限定されるべきではなく、むしろ併合の脅威にさらされているすべての地域におけるパレスチナ人の存在を守ることに焦点を当てなければならない。
なすべきこと
パレスチナの農民、牧畜民、農村コミュニティは、植民地化の装置から自分たちの土地を守る抵抗の最前線にいる。より多くの村が、より多くの家族が、そしてより多くの世代が抹殺される前に、世界は今、行動しなければならない。
◆政府
• 武器の禁輸措置を執行すること:各国政府は、武器禁輸の法的義務を遵守し、イスラエルの占領に対するすべての軍事的・財政的支援を停止しなければならない。
• 国際的な法的裁定を実施する:各国政府は、イスラエルの主権を認めず、イスラエルの占領に法的制裁を加えることによって、国際司法裁判所判決と国連総会決議を支持しなければならない。
• イスラエルによる犯罪の外交的隠蔽を止める:各国政府は、国連や国際的な法的機関における説明責任からイスラエルの占領をかばうための拒否権や政治的保護を停止しなければならない。
◆国際機関
• イスラエル入植者企業からの投資引き揚げ:多国籍企業、銀行、金融機関は、イスラエル企業から手を引き、入植者企業とのすべての取引を停止しなければならない。
• 企業の加担に対する法的措置を支援する:人権団体や法律団体は、土地の接収やパレスチナ人のインフラ破壊によって利益を得ている企業に対して訴訟を起こさなければならない。
• 脅威にさらされたコミュニティへの直接援助:人道支援団体は、のパレスチナ人コミュニティーへの直接資金援助を優先し、併合を助長するイスラエルの制限を拒否しなければならない。
◆市民社会
• 市民の圧力を結集する:草の根組織は、国民の意識向上キャンペーン、抗議行動、ロビー活動を強化し、政府の占領加担に対する責任を追及しなければならない。
• ボイコット、投資引き揚げ、制裁(BDS):市民社会運動は、イスラエルの入植者植民地主義に加担する企業や団体を標的にしたBDSの取り組みを拡大しなければならない。
• 保護的プレゼンスを提供する:国際的な活動家と連帯運動は、差し迫った強制移住に直面しているパレスチナ人コミュニティにおいて、保護的存在のイニシアチブを強化しなければならない。
(出典)国連人道問題調整事務所(OCHA)、食糧安全保障クラスター、シェルター・クラスター、ヨルダン川西岸保護コンソーシアム、植民地化と分離壁抵抗委員会、UAWC
原文(英語)は、UAWCウェブサイトからご覧いただけます。