買い物をする時に遺伝子組み換え食品は避けているから自分は食べていないと思われている方も多いかもしれません。しかし実際には、今の日本の遺伝子組み換え表示は不十分なものなので、私たちは知らないまま食べているのが実態なのです。
たとえば、日本は家畜の飼料に使うトウモロコシのほぼ全量を輸入に頼っており、その9割以上が米国産。米国では約9割のトウモロコシが遺伝子組み換えなので、日本に輸入されている飼料用あるいは食品加工用のトウモロコシのほとんどが遺伝子組み換えということになります。しかし、遺伝子組み換えトウモロコシを飼料に与えた家畜の肉は、遺伝子組み換え表示義務はありません。遺伝子組み換えトウモロコシを原料に使った加工食品も表示は不要です。
人間が直接食べるのでなければ影響は少ないと思われるかもしれませんが、昨年カナダで行われた調査で、93%の妊婦、80%の胎児の血液から、遺伝子組み換えトウモロコシに含まれるBt毒素(害虫を殺す成分)が発見されました。飼料を米国に依存している日本でも、同じ結果が出る可能性が高いと思われます。
遺伝子組み換え企業は「遺伝子組み換え作物と通常の作物は実質的に同じものであり、危険はない」と説明してきました。しかし、世界中では遺伝子組み換え作物を食べることにより、免疫疾患や不妊などさまざまな健康被害が出るという調査結果が報告されています。残念ながら日本のマスコミにはこうした情報が流れることはほとんどありません。
社会を壊す遺伝子組み換え
遺伝子組み換え問題は食べる側の健康被害に留まりません。たとえば、アルゼンチンでは遺伝子組み換え大豆に空中噴霧するラウンドアップというモンサント(遺伝子組み換え種子分野での独占的企業)の農薬によって、住民のガンや白血病、出生異常など多くの健康被害が発生しています。遺伝子組み換え企業は「遺伝子組み換えは農薬を減らす」と宣伝していましたが、遺伝子組み換え作物を導入したほとんどの地域で農薬使用は増加の一途をたどっています。大量の農薬は地下水や河川を汚染し、それを飲むすべての人、すべての動植物が被害を受けます。
遺伝子組み換え企業は現在、世界の種子企業の買収を進めています。モンサントが種子企業をすべて買収してしまった地域では、農民はモンサントの提供する種子を買うしかありません。農民が植えるものを決めて作物を作るのではなく、モンサントなどのアグリビジネスの手に決定権が移ってしまうのです。モンサントの支配した地域では短期間で遺伝子組み換え種子の割合が急速に増加し、市場のほとんどを独占しています。
今、アルゼンチンでは全農土の6割近くを大豆が占めるまでに至っています。これらはヨーロッパやアジアに輸出する家畜の餌やバイオ燃料の原料で、食料ではありません。地域の中から食料生産が消え、広大な農地で雇用されるのは大きなコンバインの運転手や農薬をまく飛行機のパイロットなどごくわずかです。雇用は失われ、地域の外から輸入した食料を買う余力のない人は飢えるしかありません。アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルを含む広範な地域で先住民族や小農民が土地から追い出され、20年前には存在しなかった飢餓層が社会に生み出されているといいます。
食べるものを選んで、遺伝子組み換え企業を追い詰める
遺伝子組み換え企業は政府に巨額のお金をつぎ込んでいるため、残念ながら政府がその規制に本格的に動くことを期待するのは難しい状況にあります。しかし、消費者が自分の食べるものを選ぶことで遺伝子組み換え企業を追い詰めることができます。自分の食べているものに遺伝子組み換え原料が入っているのかいないのか、製造会社に確かめて見ませんか? 遺伝子組み換え作物が入っているものを買わないことで、自分の体を守り、そして遺伝子組み換え企業に追い詰められている先住民族や小農民を支援することができます。
印鑰智哉(いんやく・ともや/ATJ)
※2012年9月1日(土)から全国順次で公開される映画『モンサントの不自然な食べもの』詳しくはhttp://www.uplink.co.jp/monsanto/